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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)1856号 判決

原告

福山通運株式会社

被告

小國運送株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金七〇二万八二八八円及びこれに対する平成元年一二月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の、その七を被告の、各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一〇一九万二六二六円及びこれに対する平成元年一二月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、走行道路をふさいだ形で停止していた大型貨物自動車に衝突した大型貨物自動車の所有会社において、その所有する右車輌が右衝突の反動により滑走して事故現場道路の左壁面に衝突し、更に中央分離帯に乗り上げ大破したと主張して、右停止車輌の所有会社に対し、民法七一五条に基づき、損害の賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

1  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)中発生日時、発生場所、被告車・原告車の存在、事故の態様中被告車が右事故直前本件道路追越車線(第二車線以下同じ。)をふさいだ形で停止していた事実、原告車が被告車に衝突した事実。

2  被告会社の本件責任関係事実中被告会社従業員高野康司(以下、高野という。)が本件事故当時右会社の業務執行として被告車を運転していた事実。

3  本件事故現場付近道路において右事故当時走行車輌の速度が時速五〇キロメートルに制限されていた事実。

二  争点

1  本件事故の態様及び被告車の本件停止と原告会社が主張する本件損害との間の相当因果関係の存否。

当事者双方の主張の要旨。

(一) 被告会社

(1) 高野は、本件事故直前、被告車を本件道路左側ガードレールに接触させ、右車輌は、その反動で右斜め前方に逸走して中央分離帯に乗り上げ、右道路追越車線をふさぐ形で停止した。

被告車に後続して右道路追越車線を進行していた岐阜中央市場運輸株式会社所有大型貨物自動車(手嶋保一運転。以下、手嶋車という。)が、同所にさしかかつた。しかし、手嶋は、自車前方道路に停止している被告車を認め、ほととんど減速することなく自車の進路を走行車線(第一車線。以下同じ。)へ変更して進行した。

しかし、手嶋車に追従して右道路追越車線を進行していた岡山通運株式会社所有普通貨物自動車(物部大助運転。以下、物部車という。)は、被告車を避けることができず、被告車の右後部に衝突し、横向きになつて右道路走行車線をふさいでしまつた。しかも、物部車のキヤビン部は、右衝突の衝撃により外れて前方に吹つ飛び、折から右道路走行車線を先行していた手嶋車の右側面部に衝突した。

続いて、右道路走行車線を進行して来た九州運送株式会社所有大型貨物自動車(竹尾宏之運転。以下、竹尾車という。)が、物部車の荷台に追突した。

原告車は、竹尾車に後続進行していたものであるが、原告車の運転手樽美新一郎(以下、樽美という。)は、竹尾車が物部車に追突したのを認め、自車のハンドルを右に切り、かつ急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車に衝突した。

(2) 原告会社の主張する本件事故は、物部車が前記のとおり停止している被告車に衝突し本件事故現場道路走行車線をふさいだために発生した。

しかして、物部車が被告車に衝突したのは、物部の過失に基づく。即ち、物部は、右事故当時右事故現場付近道路における走行速度が降雨のため時速五〇キロメートルに制限されていたにもかかわらず、右事故直前、物部車を時速一〇〇ないし一〇五キロメートルの速度で走行させた。しかも、物部は、自車と先行する手嶋車との間に適切な車間距離をとらず異常に接近して自車を進行させたため前方注視ができず、手嶋が停止している被告車を発見して自車を容易に右道路走行車線に避譲させ得たのに、物部の方は、被告車の発見が遅れ、右車輌との衝突を回避し得なかつた。

(3) 被告車が前記のとおり停止したのは、本件事故当日午後一〇時四二分頃であり、物部車が被告車に衝突したのは、右同日午後一〇時四七分頃である。又、物部車の右事故直前における走行速度は前記のとおりである。しかして、右各事実からすれば、被告車が右停止した時、物部車は、被告車の八キロメートル以上も後方にいたことになり、被告車が前記のとおりの状態で停止していることは、物部車にとつて避けることのできない突発事態でも何でもない。

更に、原告車が被告車との衝突により停止したのは右同日午後一〇時五五分頃と推定されるから、被告車の前記停止時間との間に九分の間隔があり、原告車は、その間時速九六キロメートル前後で走行していた。

右各事実よりすれば、原告車は、被告車の右停止時右車輌の一四・四キロメートルも後方を走行していた。

一方、被告車が前記停止している状態だけでは、右道路の走行車線における車輌の走行には何ら妨害となるものではなかつた。現に手嶋は、自車前方に停止している被告車を発見して手嶋車を前記のとおり右道路走行車線に避譲させて進行したのである。したがつて、物部車が被告車に衝突することがなかつたならば、後続の竹尾車や原告車は、難なく右事故現場を走行し去り得たはずである。

結局、原告車の損害を招いたのは、物部車ということになる。

それ故、原告車の先行車竹尾車の損害については、岡山通運株式会社において賠償し解決ずみであり、原告会社も、原告車の損害を岡山通運株式会社に対し請求すべきである。

(二) 原告会社

(1) 高速道路を走行する車輌運転者全てが右道路走行車線を走行すべき義務を負うものでない。右道路の走行車線を走行するか追越車線を走行するかは、各走行車輌運転者の判断に委ねられている。

本件においても、原告車が本件事故直前右道路追越車線に出たのは、樽美が先行する竹尾車の立てる水しぶきによつて視界を妨げられるため、同人においてやむを得ず採つた措置である。

原告車の右走行は、それ自体全く自然な行動であり、責められるべき点は何もない。

(2) 原告車は、本件事故において被告車に先ず衝突した。物部車には原告車のキヤビン部分が僅かに接触しているだけであり、原告車の本件損害は、右接触により何ら影響を受けていない。原告車と物部車との右接触は、原告車が被告車と衝突した後に発生したものであり、原告車の損害は、右接触によつて拡大された訳でもない。

確に、原告車が右道路走行車線を走行していたとしても物部車に衝突して同様の事故を起こしたかも知れない。しかし、そうだとしても、本件事故と高野の過失との間の因果関係が存在しなくなる訳ではない。

したがつて、いずれにしても、被告会社の本件事故に対する責任及び原告会社の本件損害は、物部の本件過失と無関係である。

2  高野の本件事故に対する過失の存否

原告会社の主張

(1) 被告車は、本件事故に至るまで、時速九〇ないし一二〇キロメートルで走行し、右事故直前の右速度は、時速約一一〇キロメートルに達していた。

しかも、右車輌の右事故当時における装備タイヤは、スツリプサインが出ている程度に磨耗しており、高野は、右事実を熟知しながら、右タイヤの交換をしなかつた。

本件事故現場は、緩やかな下り坂であり、しかも、右カーブになつているから、車輌が同所を通常の速度で走行しても、右車輌の後輪が左方(カーブの外側)へ流れやすかつた。

高野は、右事実も知悉していた。

しかも、本件事故当時雨が降つていた。

高野には、自車進行道路が高速道路であるから、自車の走行速度を含む運転を適切に保持し交通の安全を確認して自車を走行させる注意義務があつたにもかかわらず、同人は、これを怠り、右状況下で被告車を右高速度で走行させ、その結果、運転不能の状態に陥入り、本件自損事故を惹起した。

(2) 高野は、右事故当時、シートベルト装着義務に違反して、シートベルトを装着していなかつた。

高野は、そのため、右自損事故により重傷を負い、後続車輌への警告(非常点滅灯の点灯、停止板の設置等。)ができなかつた。

3  原告会社における本件損害の具体的内容及びその金額(弁護士費用を含む。)

4  過失相殺の成否

(一) 被告会社の主張

原告車は、本件事故直前、時速九六キロメートル前後で走行していた。

本件事故現場付近道路では、右事故当時、降雨のため、走行車輌の走行速度が時速五〇キロメートルに制限されていた。右速度制限は、雨中で、しかも夜間、本件のようなスリツプ事故による道路交通の危険発生があることを予測して採られた措置である。

したがつて、本件道路は、右事故当時、高速道路として機能していなかつた。

しかるに、原告車は、右事故直前、右制限速度を約四六キロメートルも超過し、しかも、直前先行車のあげる水しぶきで視界が妨げられる程右先行車に接近して走行していた。

原告車の右走行は、樽美の重大な法規違反であるとともに、同人の右違反が本件事故につながつたことは明白であり、同人の制限速度遵守・適切な車間距離保持義務の違反及び結果回避義務違反の責任は大である。

(二) 原告会社の主張

本件事故道路では、普通、トラツクは時速一〇〇ないし一一〇キロメートルで走行しており、雨天でない場合にはそれ以上の速度でもつて走行している車輌もある。雨天の場合でも、走行車輌の速度は、時速一〇〇キロメートル前後であり、例え走行速度が時速五〇キロメートルに制限されていても、走行車輌が右制限速度を遵守して走行すると、かえつて交通の流れに反し、他車から追突される危険がある。

本件事故現場付近の車輌の走行状態は、右事故当時も、典型的な高速道路のそれであつた。

したがつて、樽美の右事故当時における運転態度は、本件道路における車輌の右走行実態から見て、特に危険性の高いものとはいえなかつた。

かえつて、原告車が右制限速度にしたがつて走行していたならば、他車から追突される危険性の方が高かつた。

したがつて、原告車の制限速度超過走行は、本件において重要視すべきでない。

第三争点に対する判断

一1  本件事故の態様

(一) 本件事故中発生日時、発生場所、被告車・原告車の存在、事故の態様中被告車が右事故直前本件道路追越車線をふさいだ形で停止していたこと、原告車が被告車に衝突したことは、前記のとおり当事者間に争いがない。

(二)(1) 証拠(乙一ないし八、一〇、証人樽美。)によれば、次の各事実が認められる。

(イ) 本件事故現場は、高速自動車国道中国縦貫自動車道に属する。

右事故現場付近道路は、中央分離帯によつて上り車線と下り車線とに区分され、右事故現場は、下り車線(アスフアルト舗装路)内にあるが、右下り車線は、更に、各幅員三・六メートルの走行車線(外側車線)と追越車線(内側車線)とに区分されている。そして、右走行車線の南側に接する幅員一・三メートルの路側帯を隔だててガードレールが、右ガードレールの外側に右ガードレールと接して目かくし板が、それぞれ設置されている。

右下り車線は、右事故現場東方寄りから右カーブ(R六〇〇)で、やや下り坂になつている。

右事故現場付近に夜間照明設備はなく、したがつて、右場所付近は、天候が良くても暗く、夜間この付近を走行する車輌の運転者にとつて前方の見通しは良くない。

右事故現場付近道路の制限速度は、通常時速八〇キロメートルであるが、、右事故当時は、降雨のため電光表示板により指示速度時速五〇キロメートルとされていた。

右事故現場付近における、右事故当時の降雨状況は、中程度(小雨と土砂降りの中間程度)であつた。

(ロ)(a) 被告車(大型貨物自動車)の本件事故当時の構造は、次のとおりであつた。

長さ一一・九二メートル、幅二・四九メートル、高さ三・三メートル。前輪一軸、後輪二軸。最大積載量一〇七五〇キログラム、車輌重量九〇四〇キログラム。キヤビン部(長さ二・一メートル、高さ二・二七メートル。)は白色に塗色され、後部荷台(全長九・八二メートル)のアオリはアルミ製で下地は紫色に塗装され、その上部に幌が取付けられていた。

前輪一軸にはシングルタイヤが、後輪二軸にはダブルタイヤが、それぞれ装着されていたが、右側後輪四本のタイヤは、右車輪の他のタイヤに比較して摩耗し、スリツプサインが出ていた。

(b) 高野は、本件事故当日の午後一〇時四二分頃、約三ないし四トンの荷物を積載した被告車を時速約一一一キロメートルの速度で運転して本件道路走行車線を走行させ、本件事故現場付近にさしかかつた。

なお、被告車の前後には、当時、走行車輌がなく、被告車に乗つていたのは、高野だけであつた。

そして、被告車が右事故現場の東方約一七〇メートルの地点に至つた時、右場所付近の前記地理的状況、当時の天候状況、これから来る右場所付近道路面の状態、右車輌の右速度、これに被告車の前記後輪タイヤの摩耗等が競合して、被告車の後輪が左方(車輌の進行方向を基準とする。以下同じ。)へスリツプし、約三七・九メートル進行する間に車輌前部が右方の追越車線を越えて中央分離帯の方へ向つて行く形になつた。そこで、高野が自車のブレーキを軽く踏みながらハンドルを左に切つたところ、被告車は、左方へ寄り過ぎ約三一・六メートル進行する間に車輌前部が右走行車線を越え右車線の南側に設置された前記ガードレールの方に向つて行く形になつた。高野は、被告車の右進行を立て直そうと右車輌のハンドルを右に切つたところ、右車輌は、約三三・九メートル進行する間に車輌前部が再び右方の追越車線を越え中央分離帯の方へ向つて行く形になつた。同人は、これを、正常に戻すべく再度右車輌のハンドルを左に切つたが成功せず、車輌前部は、そのまま左方に向い、約二八・八メートル進行して走行車線を越え、前記ガードレールに、その左前部付近を衝突させた。被告車は、右衝突の反動も加わつて、右衝突個所から西方へ約二〇・九メートルにわたつて前記目かくし板を破損させながら、車輌前部を北西に向け中央分離帯に向つて約三九・八メートル進行し、その右前部付近を中央分離帯内のガードレールに衝突させた。次いで、被告車は、右衝突の衝撃で、車輌前部を約一〇・三メートル進行させ中央分離帯に乗り上げ停止した。しかして、被告車の右停止時における形状は、車輌前部が北西を向いて本件道路上り車線の追越車線内に進入、車体中央部は中央分離帯上、車輌後部は南東を向いて右道路下り車線の追越車線全幅をふさぐ、というものであつた。(以下、高野の惹起した右事故を高野の本件自損事故という。)

なお、被告車の右停止場所は、本件カーブのほぼ中央付近に位置していた。

(c) 高野は、被告車が右停止した時、右車輌キヤビン部内運転席からずれて中央助手席に座つた状態であり、その場所から手を伸し、運転席のハンドル軸右側にある緊急停止灯をつけようとしたが届かず、そのうち腹部裂傷(内臓露出)のため意識を失つてしまつた。

なお、同人は、右事故当時、着用するのが面倒という理由で、シートベルトを着用していなかつた。

又、同人は、日頃本件道路を頻繁に通行していて、右事故現場付近の地理には通暁していたし、被告車の前記タイヤの摩耗状況も知悉していた。

更に、同人は、右事故当時、右事故現場付近道路の走行速度が降雨によつて視界が悪いため時速五〇キロメートルに制限されていたことも知つていた。

(ハ)(a) 手嶋車と物部車の本件事故当時における構造は、次のとおりであつた。

手嶋車(大型貨物自動車=冷蔵冷凍庫)

長さ一一・五三メートル、幅二・四九メートル、高さ三・五六メートル。前輪一軸、後輪二軸。最大積載量九二五〇キログラム、車輌重量一〇五六〇キログラム。キヤビン部(長さ二・四メートル)は全面緑色に塗色され、後部荷台は樹脂製で全面白色に塗装されている。

前輪一軸にはシングルタイヤが、後輪二軸にはダブルタイヤが、それぞれ装着されていた。

物部車(岡山通運株式会社所有普通貨物自動車)

長さ七・六六メートル、幅二・二五メートル、高さ三・二一メートル。前輪一軸、後輪一軸、最大積載量三七五〇キログラム、車輌重量四〇四〇キログラム。キヤビン部は全面青色に塗色され、後部荷台はアルミニユーム製の箱型であつた。

前輪一軸にはシングルタイヤが、後輪一軸にはダブルタイヤが、それぞれ装着されていた。

(b) 手嶋は、本件事故当日の午後一〇時四七分頃、手嶋車を時速約一一〇キロメートルの速度で運転して本件道路走行車線を走行させ、右事故現場東方付近にさしかかつた。

そして、手嶋車が本件事故現場の東方約三八〇メートルの地点に至つた時、手嶋は、自車前方に進行する大型車輌を認め、自車を本件道路追越車線に進路変更して右大型車輌を追越し、そのまま右追越車線を進行して、更に自車前方の右道路走行車線を走行している大型貨物自動車(竹尾車)を追越した。手嶋が右大型貨物自動車を追越して本件事故現場の東方約六四・八メートルの地点に至つた時、同人は、自車前方路上に何か進路を妨害する物体があると気付き、自車の速度を減じたうえゆつくりと自車のハンドルを左に切り本件道路走行車線内に自車の進路を変更し始め約四六・二メートル進行して右走行車線内に進路変更した。同人は、自車をそのまま進行させ、本件事故現場間近になつてようやく、自車のヘツドライトで、自車前方に前記形状で停止している被告車を認め、これとの衝突を避けるため自車をできるだけ右走行車線の左側に寄せ、被告車の後部を通過した。しかし、手嶋車が被告車の後部を通過するかしないかの頃、手嶋は、自車右側面後部に衝撃を感じ、自車が被告車と衝突したのかも知れないと思い、右事故を管轄警察署に連絡すべく、そのまま自車を約五分走行させ、右事故現場の西方に所在する赤松パーキングエリアに赴き、同所で、右警察署に右事故を電話連絡した。

手嶋は、右のとおり自車前方を走行する大型車輌を追越すべく本件道路追越車線内に車線変更し右大型車輌を追越した地点(本件事故現場の東方約二九六・八メートルの地点)に至つた時、自車左側バツクミラー中に、自車後方から進来する物部車をそのヘツドライトの光線で認めたが、物部車は、かなりの高速で接近していた。そして、手嶋が右のとおり本件道路走行車線内に自車の進路変更をし終つた時、物部車は、右道路追越車線上手嶋車の右後方直近を走行していた。

(c) 物部車は、右のとおり手嶋車に追従しこれに接近して行つたが、物部車の当時の速度は、時速約一〇五キロメートルであつた。

物部車は、右のとおり手嶋車の右後方に接近した後、そのままの速度で本件道路追越車線を直進し、物部車の右前面部と被告車の右側面後部とが衝突した。物部車は、右衝突時、手嶋車とほぼ平行する形になつていた。そして、物部車のキヤビン部が、右衝突の衝撃により、車体部から完全に脱落し、その車体部が、右衝撃により、回転してその前部を被告車の後部に接続して北東に向け、その後部を南西に向け本件道路走行車線を完全にふさぐ形で停止した。(以下、物部の惹起した右事故を本件物部車・被告車間事故という。)

脱落した右キヤビン部は、その左後角部が前記のとおり手嶋車の右側面後部に衝突し、最終的には右車体部の西方約一二メートルの地点に飛ばされていた。

なお、右キヤビン部は、右事故の衝撃で甚だしく損傷し、押しつぶされた状態になつたが、物部は、右キヤビン部中で、ほぼ即死の状態であつた。

(ニ)(a) 竹尾車(大型貨物自動車)の本件事故当時における構造は、次のとおりであつた。

長さ一一・九八メートル、幅二・四九メートル、高さ三・七八メートル、前輪二軸、後輪一軸。最大積載量一〇〇〇〇キログラム、車両重量九七九〇キログラム。キヤビン部(長さ二・一八メートル)は下部濃青色、上部白色に塗色され、後部荷台車体はアルミニユーム製の箱型である。

前輪二軸の前側にはシングルタイヤが、その後側と後輪二軸にはダブルタイヤが、それぞれ装着されていた。

(b) 竹尾は、本件事故当日の午後一〇時四七分頃、竹尾車を時速約九五キロメートルの速度で運転して本件道路走行車線を走行させ、右事故現場東方付近にさしかかつた。

そして、竹尾車は、右事故現場の東方で、前記のとおり右道路追越車線を走行する手嶋車に追越されたが、その時、物部車は既に手嶋車の後方約六メートル付近まで接近し手嶋車に追従進行していた。

竹尾車は、右速度でそのまま右道路走行車線を進行し、右車両が右事故現場東方約七九メートルの地点に至つた時、竹尾は、自車前方約四九メートルの地点を走行していた手嶋車が右道路追越車線から走行車線へ車線変更するのを認めた。しかし、物部車は、そのまま右追越車線を直進して行つた。

竹尾は、竹尾車が右事故現場東方約四五メートルの地点に至つた時、大きな衝突音を聴き、自車前方に白煙(物部車のラジエーターが破壊され、その中の水が噴出したものと推認される。)を認め、同時に、大きな物体(物部車の荷台)が自車前方の走行車線上にじわじわと動いて来て右走行車線をふさごうとしているのも認めた。

竹尾は、自車前方に突然出現した、右大型物体の異常な動向に自車との衝突の危険を感じ、とつさに自車に急ブレーキをかけたが間に合わず、そのまま進行して、竹尾車のキヤビン部の右前角部と物部車の右側面後部とが衝突した。

物部車車体部(右車両のキヤビン部は、前記のとおり脱落した。)は、竹尾車との右衝突の結果、物部車が被告車と衝突して物部車の車体部が停止した地点から西北方向に約二二メートル滑走し、車体前部を北東に向けて中央分離帯に乗り上げ、車体後部を南西に向け本件道路追越車線上に残つて停止した。

竹尾車は、物部車車体と右衝突した後、右道路走行車線上を西方へ約七〇メートル進行して停止した。

竹尾は、物部車車体との右衝突後意識を失い、竹尾車が右停止する直前意識を回復した。

(ホ)(a) 原告車(大型貨物自動車)の本件事故当時における構造は、次のとおりであつた。

長さ一一・六五メートル、幅二・四九メートル、高さ三・七五メートル。前輪二軸、後輪一軸。最大積載量一〇〇〇〇キログラム、車両重量九六三〇キログラム。

キヤビン部(長さ一・八メートル)は黄緑に塗色され、中央部に赤色ラインが黄色で枠取りされている。後部荷台はアルミニユーム製箱型で、黄緑のラインの中に赤と黄色のラインが引かれている。

前輪二軸にはシングルタイヤが、後輪一軸にはダブルタイヤが、それぞれ装着されていた。

(b) 樽美は、本件事故当日の午後一〇時五〇分頃、雑貨約一〇トンを積載した原告車を時速約九五キロメートルの速度で運転して本件道路走行車線を走行させ、右事故現場東方付近にさしかかつた。

そして、原告車は、右事故現場の東方で、前記のとおり右道路追越車線を走行する手嶋車とそれに追従走行する物部車に追越され、次いで竹尾車に追越された。竹尾車は、原告車を追越した後、右道路走行車線内に戻り走行を続けた。

樽美は、先行する竹尾車が原告車を追越した後、自車が右事故現場東方約二五〇メートルの地点に至つた際、先行する竹尾車の速度が遅く右両車両の車間距離が開かないし、竹尾車の立てる水しぶきが自車にかかるのでこれをも避けるため、竹尾車を追越そうとして、自車の進路を右道路追越車線に変更した。

そして、樽美は、原告車の進路を右のとおり変更した後後続車もなかつたことから自車を従前の速度でそのまま右道路追越車線内を約二〇〇メートル進行させ、右事故現場東方約五〇メートルの地点に至つた時、樽美は、自車前方に、その進路をふさぐ形で停止している被告車を認め、とつさに自車のハンドルを左に切り右道路走行車線へ出ようとしたが間に合わず、原告車の右側面後部付近と被告車荷台右側面後部とが衝突した。

原告車は、右衝突後、右車両前部を南西に向けたまま約一二・七メートル南西方向へ滑走して、右車両左前部(キヤビン部左前部)を右道路走行車線南側に設置された前記ガードレールに衝突させた。原告車は、右南西方向へ滑走する際、その車体(アルミニユーム製)右側面を前記脱落した物部車キヤビン部に接触(物部車の脱落キヤビン部がその左側面を下、右側面を上にしている状態で接触したものと推認される。)させた。原告車には、右接触により二個所(長さ〇・六メートル及び三・二メートル)の破損部分が生じた。原告車は、続いて右ガードレールとの衝突の反動で、その前部を北西に向き変え、竹尾車の後方をすり抜ける形で北西方向に約二九メートル滑走し、そのまま車両前部を北西に向けて中央分離帯に乗り上げ、車両後部を南東に向け右道路追越車線に残した形で停止した。(以下、原告車が関係する右事故を本件原告車関係事故という。)

(c) 樽美は、日頃から本件道路を頻繁に通行し本件事故現場付近の地理に通暁していたし、本件事故当時、右事故現場付近道路の走行速度が降雨のため時速五〇キロメートルに制限されているのも知つていた。

2(一)  本件事故中高野の本件自損事故と本件原告車関係事故による原告会社の損害との間の相当因果関係の存否

前記認定にかかる、本件事故現場付近道路の種類(高速道路)、右道路付近の地理その他の客観的状況、右事故発生時の天候、時間、走行車両の種類、走行速度、右事故中における右両事故の場所的時間的関係等を総合すれば、高野の本件自損事故と本件原告車関係事故による原告会社の損害との間に相当因果関係の存在を肯認するのが相当である。

右確定説示に反する被告会社の主張は、理由がなく採用できない。

(二)  本件物部車・被告車間事故と本件原告車関係事故による原告会社の損害との間の相当因果関係の存否

(1) 本件物部車・被告車間事故及び本件原告車関係事故の発生経過、事故内容、原告車の物部車による被害状況、その被害個所と程度等は、前記認定のとおりである。

(2) 右認定各事実によれば、物部車のキヤビン部が本件物部車・被告車間事故によつて脱落したこと自体及び右脱落キヤビン部の存在が後続した本件原告車関係事故の経過において原告車に接触して右車両に損害を与えたことは、通常ではない。本件事故にのみ生じた特殊的事態と認めるのが相当であるから、物部車の右脱落キヤビン部と原告車との接触及びこれによる原告会社の損害との間には、事実的因果関係の存在はともかく、法的評価としての相当因果関係の存在は、未だこれを肯認し得ない。

被告会社の、原告会社の本件損害は岡山通運株式会社において負担すべきである旨の主張は、その余の主張について判断を加えるまでもなく、右認定説示の点で既に理由がない。

二  高野の本件過失の存否

1  高野の本件自損事故の発生経過、その原因及び事故内容、右事故の外的客観的状況等については、前記認定のとおりである。

2  右認定事実関係に基づけば、高野には、本件事故当時降雨のため走行速度が時速五〇キロメートルに制限されていたのであるから、右制限速度を基準として自車の走行速度を調節したうえ適切な運転操作をし後続車両の交通の安全を妨げる事態を招来しないよう走行すべき注意義務があつたのに、同人は、これを怠り、前記速度で自車を進行させて運転操作を誤つた過失により、本件自損事故を惹起した。

三  原告会社における本件損害の具体的内容及びその金額

1  車両修理費 金三七三万九九四〇円

証拠(甲四の一ないし三、証人大本。)によれば、原告会社は、原告車の修理費用金三七三万九九四〇円を支出したことが認められる。

2  休車損害 金三三六万六一八八円

証拠(甲八、九、一一、証人大本。)によれば、次の各事実が認められる。

(一) 原告車の本件事故当時における稼働収入は、一日平均金一六万二六一九円である。

(二) 非固定経費(稼働収入の五五パーセント相当)は、金八万九四四一円である。(円未満切上げ。)

(三) 本件休車期間は、本件事故当日の昭和六三年六月二四日から右車両の修理期間の末日である同年八月八日までの四六日間である。

(四) 右認定各事実を基礎として、本件休車損害を算定すると、金三三六万六一八八円となる。

(16万2619円-8万9441円)×46=336万6188円

3  レツカー車代 金二七万三〇〇〇円

証拠(甲五の一ないし三、証人大本。)によれば、原告会社は、原告車が本件事故により走行不能になつたため右車両を右事故現場から搬出するにつきレツカー車による搬出を依頼し、その費用金二七万三〇〇〇円を支出したことが認められる。

4  道路公団関係立替払金 金一五六万四〇五八円

証拠(甲二の一ないし五、三の一ないし三、証人大本。)によれば、原告会社は、本件事故後、道路公団から、原告車が衝突して破損させた前記ガードレール等施設の復旧費を請求され、その合計金一五六万四〇五八円を支払つたことが認められる。

5  積荷破損 金一八万二九四〇円

証拠(甲六の一ないし三、七の一、二、証人大本。)によれば、原告会社は、本件事故により、当時原告車に積載していた荷物が破損し、そのため荷主に損害賠償せざるを得ず、右賠償費用合計金一八万二九四〇円を要したことが認められる。

6  積み替え救援費

原告会社の右損害費目に関する主張事実中派遣従業員及び派遣車輌の数、原告会社が右救援により被つた逸失利益算定のための単価等については、これを認めるに足りる証拠がない。

7  原告会社の本件損害合計額 金九一二万六一二六円

四  過失相殺の成否

1  本件事故現場付近道路において右事故当時車輌の走行速度が時速五〇キロメートルに制限されていたことは、前記のとおり当事者間に争いがない。

しかして、右事故現場付近道路の種類(高速道路)、右道路付近の地理その他の客観的状況、右事故発生時の天候、時間、走行車輌の種類、右走行速度制限の原因、高野の本件自損事故の発生経過及びその内容、同人の右事故発生に対する過失の存在及びその内容、本件原告車関係事故発生経過及びその内容、特に、樽美が本件事故当時右走行速度制限の存在及びその原因を知つていたこと、同人が右事故直前本件道路追越車線に進路変更した際の状況、原告車の走行速度が当時時速約九五キロメートルであつたこと等は、前記認定のとおりである。

2(一)  右認定各事実を総合すれば、本件原告車関係事故の発生には、樽美の制限速度義務違反及び車間距離保持義務違反の過失も寄与していると認めるのが相当である。

(二)  原告会社は、本件道路が高速道路であること、高速道路における走行車輌の走行実態(右道路の走行車輌が制限速度時速八〇キロメートルの場合でも、右制限速度を超過する時速一〇〇ないし一一〇キロメートルで走行している常態)、原告車以外の本件関係車輌も、右事故当時、時速一〇〇ないし一一〇キロメートルの速度で走行しており右制限速度時速五〇キロメートメにしたがつて走行したならば他の後続車輌より追突される危険性があつたこと等に基づき、樽美の本件制限速度超過を重要視すべきでない旨主張している。

しかして、本件道路が高速道路であることは前記認定のとおりであるところ、法も、高速道路における車輌の走行に対し一般道路における車輌の走行とは異なつた取扱いをしていることは確である。(道路交通法四章の二。)又、原告車以外の関係車輌が本件事故当時時速一〇〇ないし一一〇キロメートルで走行していたことも、前記認定のとおりである。

しかしながら、高速道路であつても、本件のように走行速度が一般道路なみの時速五〇キロメートルに規則されている場合には、右道路の走行車輌に対する右特別取扱いは妥当しないと解するのが相当である故、右規制前の走行車輌の走行実態は右規制後の制限速度違反走行を正当化しないし、又、同じ理由から、原告車以外の本件関係車輌が時速一〇〇ないし一一〇キロメートルの速度で走行していても、右関係車輌の走行は、まさに制限速度違反であつて、右違反走行をもつて樽美の本件制限速度違反を正当化することもできないというべきである。

更に、原告会社の右主張中後続車輌から追突される危険性については、本件事故現場東方付近において原告車に後続車輌がなかつたことは前記認定のとおりであるから、少くとも、右道路付近から本件原告車関係事故発生現場までの間原告車につき原告会社主張の右危険性は存在しなかつたというべく、したがつて、右危険性の存在をもつてしても、樽美の右事故発生直前の制限速度違反を正当化し得えないというべきである。

よつて、原告会社の右主張は、いずれにせよ理由がなく採用できない。

3  樽美の前記過失は、原告会社の本件損害額を算定するに当たり斟酌するのが相当であるところ、右斟酌する樽美の右過失の割合は、前記認定にかかる樽美と高野の本件各過失とを対比し、高野の右過失割合が七〇パーセント、樽美のそれが三〇パーセントと認めるのが相当である。

しかして、原告会社の前記認定の本件損害合計金九一二万六一二六円を右過失割合で所謂過失相殺すると、その後の原告会社が被告会社に請求し得る右損害賠償額は、金六三八万八二八八円となる。(円未満四捨五入。)

五  弁護士費用 金六四万円

前記認定にかかる本件全事実関係に基づき、本件損害としての弁護士費用を金六四万円と認める。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和六三年六月二四日午後一〇時四七分頃

二 場所 神戸市北区長尾町上津中国縦貫自動車道下り三五・二キロポスト

三 加害(被告)車 被告会社所有高野康司運転の大型貨物自動車

四 被害(原告)車 原告会社所有樽美新一郎運転の大型貨物自動車

五 事故の態様 被告車が本件事故現場道路において、その追越車線をふさぐ形で横向きに急停止したため、後続車である原告車が被告車を避けきれず、被告車の右側面後部と原告車の右側面後部とが衝突した。しかして、原告車は、右衝突後、右衝突の反動で、右道路左側壁面に衝突し、更に右道路中央分離帯に乗り上げて大破した。

以上

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